環境技術で社会に貢献
会社は25年になりますが、当初はダイオキシンの分解技術に取り組んでいました。ゴミの焼却場から出る灰にはダイオキシンが生成されてしまうので、鹿児島県の自治体と共同してドイツのハノーバー大学で開発された技術を基にプラントまで作ったんですが、技術的には成功しませんでした。それで、そのケミカルの技術を基にして、もっとエンドユーザーに販売できるものを、と考えました。とはいえ、エンドユーザーに関わる環境技術のものって、最初はあんまりピンとこなかったんですが、災害時のトイレの問題を知って、これならば環境商品としてできるのではないかと開発をはじめたのが2005年です。ダイオキシンは、分解できたかどうかは分析しないと分かりませんが、汚物は処理すれば臭いがなくなりますから非常にわかりやすい。それに、ダイオキシンはごく一部でしか発生しませんが、トイレに関しては地球のどこでも必要なので、マーケットは深いのかなと考えました。
開発にはずっと、私の本物の便を使ってきました。それは責任を持って、自分の検体で実験をというところです。妻からは「毎朝必ず出るね」って褒められて(笑)。
ラムネ菓子から思いついたタブレット
「ほっトイレ」は形状はタブレットで、排泄物が掛かると膨らんで包み込みます。最後は〝おから〟状になって臭いもしません。最初は、人間の排泄物が全く粉になってしまう商品を出したんですけれど、反応熱が100℃程に上がってしまうんです。災害時に安全に使えるように、もっと単純に同じような効果を出せないだろうかと開発していくなかで見つかったのが、「ほっトイレ」の薬剤です。はじめは、ふりかけ式の薬剤を作っていたんです。ところが、その薬剤を排泄物にふりかけたときに粉が舞ってしまうんですね。そこで、顆粒状にしようと思ったんですが、なかなか良い技術が見つからない。その時に、ふと駄菓子のラムネが思い浮かんで、あの技術で何かできるんじゃないかと考えて、タブレットにしたわけです。
使い方ですが、私は初めのうち排泄物にふりかける事しか考えていませんでした。しかし、トイレをした後は、排泄物の水分を紙が吸ってしまい、タブレットをバラバラってかけても効果が薄かったんです。これは大失敗だな、やっぱりもっと細かくないと駄目だなと思って、しばらく放っておいたんです。
そんなあるとき、ちょっといたずら心が出て、タブレットを先に入れたらどうなんだろうと思って、トイレをする前に入れてみたんです。そうしたら大成功で。考えてみたら先に入れる方が楽ですよね。そこから、タブレットの形やタブレットが崩壊する時間などをさらにブラッシュアップしていきました。
福島第一原発事故の現場で採用
販売したのは2010年の年末です。翌年3月に東日本大震災が発生したため、様々なところに採用いただきました。一番は東京電力さんで、福島第一原発の事故現場で使ってもらいました。そのほか自衛隊さんや、その後はいろんな大手企業さんに採用いただいています。もう一つは観光地です。最初に富士山で2014年に「ほっトイレ」の配布が始まりました。採用先には、備蓄期限がきたものを途上国に寄付する提案もしています。これまでは買い換えるときにみんな捨てちゃうんですね。もったいないなと思って、買い替える企業さんにとっても社会貢献になるのではないか、と考えています。
もともと「人に何か貢献できないか」という気持ちは自分の中にすごくあって、仕事も社会活動的な形が自分では居心地良く感じます。ダイオキシンの分解技術の開発とは、結果的には全然別のものができたわけですが、やっぱり環境の技術の流れとか、環境問題に対する根本的な捉え方、考え方などは、ダイオキシンの分解技術の開発ですごく学ばせてもらいましたし、あるいは特許の取り方といったこととか、そうした点では非常に役立っています。