海外進出に伴い企業のリスク対策が不可欠に
1986年の大手商社マニラ支店長誘拐事件をはじめ、1980年代はテロ組織による誘拐やテロが目立ち、海外で邦人被害が多発していました。1990年代に入ると一層の拍車がかかり、1990年に発生した湾岸危機では日本人200人以上が人質となり、24人の日立グループ社員も含まれていました。以降毎年のように各地で邦人が巻き込まれる事件が起きる中、在ペルー日本大使館公邸占拠事件(1996年)やインドネシア暴動(1998年)のように、大人数の日本人が拘束されたり、退避を余儀なくされる衝撃的なケースも発生しました。私が日立のリスク対策部で仕事を始めたのは1991年です。さまざまな事案の対応を思い起こしても、「グローバルな情報をいかにタイムリーに収集するか」が大きな課題でした。日立グループの拠点は広く世界に展開されていて、情報収集にはそれなりの時間が必要になります。日立製作所の従業員は当時20万人を超え、グループ会社や家族も合わせると100万人を超えます。常駐拠点や作業現場のある各国は、政情が安定している国ばかりではありません。インフラ関係の仕事、例えば発電所を建設する国は多くが新興国で、必要な情報を集めるのは簡単ではありません。
政治経済、自然災害、感染症、治安など、円滑な事業活動と日々の安全な生活のために必要な情報を全て収集するように努めます。個別プロジェクトについて集中的に情報を集める一方、日ごろからリスク対策部は、守備範囲としていた4分野(自然災害、政治紛争、犯罪行為、自己リスク)に焦点を合わせて鋭意、情報収集に注力していました。
平時からグローバルに情報をウオッチ
共同通信社が「海外リスク情報」サービスを開始すると聞いたときに、迷わずぜひ活用したいと思いました。日々、世界の情報をリアルタイムで報じている共同通信社が「企業の海外リスク」に焦点を合わせて情報配信すると聞いて、本当に心強く感じました。その後の有事対応で「海外リスク情報」に助けられたことは、事件事故の大小を問わず枚挙にいとまがありません。世界50カ国以上に支局を置いている通信社として、企業が有事に直面したときの情報提供だけでいいのか、と考えたことが「海外リスク情報」誕生のきっかけだったと聞いています。企業に対して世界の様子を日々、リアルタイムに情報発信することが重要であり、求められていると考えたそうです。全くそのとおりで、企業は平時から情報をウオッチしていなければ、有事に正しく事態を分析して的確に判断することはできません。平時の取り組み次第で有事対応の出来が決まってしまいます。
また、「海外リスク情報」をイントラネットのホームページに載せて一般社員のアクセスを可能にすれば、社内に危機感が醸成され広く浸透することにも繋がるでしょう。
企業にとって有効な情報提供のために
絶え間なく進化し続ける情報化社会にあって、情報の真偽を見極めることが一層重要になっています。いわゆる「フェイクニュース」が簡単に拡散され得る現状を鑑みると、真偽の見極めは決して易しくありません。そこにも、共同通信社に求められる役割があると思っています。「海外リスク情報」を日々モニターすることで、誤情報を遠ざけることもできると考えています。私が共同通信デジタルに職場を移したのは、日立グループの危機管理で30余年の活動を経た2014年です。以来情報のユーザー側から提供する側になって、「海外リスク情報」に携わっています。共同通信社や各国通信社の優秀な記者たちが24時間体制で提供する情報は、質と量、速度とも世界で最高の水準であると思います。このような情報が、引き続き企業にとって最大限に有効なものであるよう、私は提供する側とされる側の両方の目線から貢献に努めたいと願っています。